Published on 2026-02-09

医療機器のアイデアを実際の製品として市場に投入するまでには、綿密な計画、法規制への対応、そして高度なエンジニアリング技術が求められます。また、製造プロセスの各段階において、医療機器業界の規制要件や患者の安全性に関する基準を満たす必要があります。適切に構築された医療機器の設計・開発プロセスは、法規制への適合だけでなく、製品の品質や安全性を確保するうえでも重要です。
本記事では、高品質な医療機器を開発し、市場投入につなげるために重要となる設計の基本原則と製造戦略について解説します。
Table of Contents
医療機器の設計・開発において品質が重要な理由

医療機器の設計は、単に外観や機能を決めるだけではありません。患者の安全性や臨床結果、さらに規制当局による承認にも直接影響します。設計に問題がある場合、重大な事故や規制対応の遅れ、製品リコールにつながる可能性があります。
設計管理(Design Control)とは、医療機器の設計・開発活動を体系的に管理するプロセスです。米国食品医薬品局(FDA)や欧州医薬品庁(EMA: European Medicines Agency)などの規制当局は、医療機器のライフサイクル全体を通じて一貫した品質を確保し、リスクを低減するための設計管理体制を求めています。
米国では、医療機器メーカーに対して品質マネジメントシステム(QMS)の中で設計・開発に関する管理を実施することが求められています。
FDAの21 CFR Part 820.30は、規制への適合を確保するため、製造業者に対し、品質マネジメントシステム(QMS)において設計管理を導入することを義務付けています。
医療機器の設計・開発から市場投入までの流れ

医療機器をアイデアから製品化し、市場へ投入するまでには、綿密な計画と正確な開発、さらに各市場の規制要件への対応が必要です。
ここでは、医療機器開発における主な8つのステップを紹介します。
1. 製品企画・アイデアの検討
医療機器の開発は、医療現場における未解決のニーズや、既存製品の改善点を発見することから始まります。
この段階では、市場調査、ユーザーへのヒアリング、医療現場での観察などを通じて製品コンセプトを明確にします。開発初期に製品の目的や要件を明確にしておくことで、後工程における大幅な設計変更や追加コストを抑えやすくなります。
主な検討項目には以下があります。
- ユーザーニーズの把握: 医師、看護師、その他の医療従事者や患者などのニーズを確認し、製品の目的を明確にします。
- 競合製品の分析: 既存製品を調査し、市場における課題や改善の余地を分析します。
- 実現可能性の検討: 技術面、コスト面、規制面などから製品化の可能性を評価します。
2. 医療機器のクラス分類
米国ではFDAが医療機器の製造・流通を監督しており、リスクレベルに応じて医療機器をClass I、Class II、Class IIIの3つに分類しています。
Class Iは比較的リスクの低い医療機器、Class IIは中程度のリスクを持つ医療機器、Class IIIは生命維持装置などを含むリスクの高い医療機器に分類されます。
製品のクラスによって必要となる規制対応や市販前手続きが異なるため、開発の早い段階で対象市場における製品分類を確認することが重要です。
3. 設計インプット(Design Input)
設計インプットは、医療機器の用途や要求事項を具体的な設計要件へ落とし込む工程です。
なかでも材料選定は重要であり、生体適合性、耐久性、滅菌方法との適合性などを考慮する必要があります。
また、製品の性能や信頼性を左右する機能要件についても検討します。寸法精度、消費電力、ソフトウェアとの連携、安全機構など、製品に必要となる要素を明確にし、それぞれが適切に機能するよう設計します。
例えば、バッテリー駆動型の医療機器では消費電力が使用可能時間に直接影響します。また、ソフトウェアを組み込むことで、自動制御やリアルタイムモニタリングなどの機能を実現できます。
4. 設計・試作
設計・開発段階では、製品コンセプトを実際に機能する形へ具体化していきます。
まずスケッチやCADモデルを作成し、製品の構造や機械設計を検討します。基本設計が完成した後は、3Dプリント、CNC加工、射出成形などの方法を利用して試作品を製作し、評価や設計改善を行います。
試作段階から量産性を考慮したDFM(Design for Manufacturability:製造性を考慮した設計)を行うことで、量産移行後の設計変更や製造上の問題を低減することができます。
5. 設計アウトプット(Design Output)
設計内容が確定すると、製造に必要となる図面、仕様書、材料仕様、製造条件などの設計アウトプットを作成します。
これらは量産時の製造や品質管理の基準となる重要な情報です。
設計アウトプットは適切に文書化し、設計インプットとのトレーサビリティを確保したうえで、品質マネジメントシステム(QMS)の中で管理する必要があります。
6. 検証・妥当性確認(Verification & Validation)
設計アウトプットが確定した後は、医療機器が設計要件を満たし、実際の使用環境において意図したとおりに機能するかを確認します。Verification(検証)では、製品が設計仕様や技術要件を満たしているかを確認します。
一方、Validation(妥当性確認)では、実際または想定される使用条件において、製品がユーザーのニーズや意図した用途を満たしているかを確認します。
この工程は量産前に潜在的な問題を発見し、製品の安全性と信頼性を確保するために重要です。
7. 規制当局への申請・承認
検証・妥当性確認を経た後、市場へ投入するために必要な規制上の手続きを行います。
必要となる手続きは販売する国や地域、医療機器の分類によって異なります。
米国では、対象となる製品について510(k)市販前届出やPMA(市販前承認)などの手続きが必要となる場合があります。
EU市場では、EU医療機器規則(MDR 2017/745)などの適用要件を確認し、該当する場合はNotified Body(認証機関)による適合性評価などを経てCEマーキングに必要な手続きを行います。
- FDA承認(米国):ハイリスクの医療機器については、510(k)承認(実質的同等性に基づく承認)または市販前承認(PMA)が必要です。
- CEマーク(EU):MDR 2017/745への適合およびノーティファイド・ボディ(通知機関)による承認が必要です。
8. 量産・市場投入
必要な手続きが完了すると、量産体制を構築し、製品を市場へ投入します。
しかし、医療機器の品質管理は市場投入で終わるわけではありません。
市場投入後も、市販後監視(Post-Market Surveillance)を通じて製品の性能や不具合、有害事象などを継続的に確認し、安全性と品質を維持する必要があります。
医療機器設計で重要となる5つのポイント

医療機器の性能、安全性、使いやすさを左右する代表的な5つの設計要素について解説します。
1. 安全性
患者の安全性は、医療機器開発において最も重要な要素の一つです。
医療機器の故障や誤作動は重大なリスクにつながる可能性があるため、開発初期から安全性を考慮した設計が求められます。
- 生体適合性
人体や組織に接触する材料については、用途や接触条件に応じて生体適合性を評価する必要があります。ISO 10993シリーズなどの規格に基づき、生物学的リスクを評価します。
- 電気的・機械的安全性
医用電気機器では、IEC 60601シリーズなど、対象となる製品に適用される安全規格への対応が求められます。
- 滅菌・感染管理
再使用される医療機器などでは、製品の材料や性能を損なわず、適切な洗浄・消毒・滅菌を行えるよう設計する必要があります。
- フェイルセーフ機構
重大な故障を防ぐため、製品に応じて冗長化、緊急停止機能、警報機能などの安全機構を設計段階から検討します。
安全対策を設計初期から組み込むことで、開発後半での大幅な変更を抑えながら、製品リスクの低減につなげることができます。
2. トレーサビリティ
医療機器におけるトレーサビリティは、品質管理、規制対応、市販後監視などにおいて重要な役割を持ちます。製品や部品、製造情報などを適切に追跡できる体制を構築することで、品質問題が発生した際の原因究明や対象製品の特定を迅速に行うことができます。
代表的な管理項目には以下があります:
- UDI(Unique Device Identification):
対象となる医療機器を識別・追跡するための識別システム - DHF(Design History File):
設計・開発プロセスに関する記録
- DMR(Device Master Record):
製造仕様や工程など、製品を製造するために必要な情報 - PMS(Post-Market Surveillance):
市販後の製品性能、不具合、安全性情報などの監視
3. 低消費電力設計
バッテリーを使用する医療機器では、消費電力も重要な設計要素です。低消費電力化によってバッテリー駆動時間を延長できるほか、充電やメンテナンスの頻度を抑え、患者や医療従事者の利便性を高めることができます。特にウェアラブル医療機器や携帯型診断機器などでは、小型化と長時間駆動を両立するための電力設計が重要となります。
4. リスクマネジメント
医療機器開発では、安全性を確保し、規制要求を満たすためのリスクマネジメントが欠かせません。
ISO 14971では、医療機器に関連するハザードを特定し、リスクを評価・管理するための体系的なプロセスが規定されています。
代表的な取り組みには以下があります:
- ハザードの特定:
FMEA(故障モード影響解析)などを利用して潜在的な故障や危険を分析 - リスク低減:
設計変更、安全機構、ソフトウェア対策などによってリスクを低減 - ヒューマンファクター:
分かりやすい操作方法、表示、エルゴノミクスなどを考慮し、使用上のエラーを低減
5. ユーザー中心設計
医療機器は、実際に製品を使用する患者や医療従事者を考慮して設計する必要があります。
使いやすい製品設計は操作ミスの低減につながるだけでなく、患者の治療継続や医療現場での作業効率向上にも貢献します。
主なポイントには以下があります:
- アクセシビリティ:
手指の動かしにくさや視覚上の制約などがあるユーザーでも操作しやすい設計 - 多様なユーザーへの対応:
年齢、体格、身体能力などの違いを考慮した設計 - ヒューマンファクターエンジニアリング(HFE):
ユーザビリティ評価や実際の使用環境を想定した検証による使用エラーの低減
医療機器の製造パートナーを選ぶ際のポイント

医療機器の製品化を成功させるためには、適切な製造パートナーを選ぶことも重要です。
製造会社を選定する際には、品質マネジメントシステム、医療機器製造の経験、対応可能な工程、クリーンルームなどの製造環境を確認する必要があります。
1. ISO 13485認証を取得しているか
ISO 13485は、医療機器の品質マネジメントシステムに関する国際規格です。
ISO 13485に基づいた品質管理体制を構築しているメーカーを選ぶことで、医療機器製造に必要となる工程管理、文書管理、トレーサビリティなどへの対応を進めやすくなります。
2. 医療機器に関する規制要求を理解しているか
医療機器の開発・製造では、販売市場や製品分類に応じたさまざまな規制要求への対応が必要です。
医療機器分野での製造経験を持ち、ISO 13485などの品質要求を理解した製造パートナーと開発初期から連携することで、量産段階で発生する問題や設計変更のリスクを低減できます。
3. 開発から量産まで一貫して対応できるか
複数の工程を一社で対応できる製造パートナーを選択することで、サプライヤー間の調整負担を軽減し、製品開発を効率化できます。
例えば、DFM(製造性を考慮した設計)、試作、材料選定、金型製作、射出成形、組立、検査、包装などを一貫して対応できれば、試作段階で得られた知見を量産工程へ反映しやすくなります。
4. クリーンルーム製造に対応しているか
医療機器や医療用部品では、製品用途に応じて異物や微粒子などの汚染リスクを管理する必要があります。
クリーンルームでの製造が必要となる製品では、ISO 14644シリーズなどに基づいて管理された製造環境を持つメーカーを選定することが重要です。
適切な製造パートナーとの連携は、医療機器の品質や生産効率を高め、市場投入までのプロセスを円滑に進めるうえで重要な要素となります。
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